Dへの扉

謎生物、地球でやりたい事をする

EVE#031『アイとフタ①』

注意

  • この物語の元となったのはとある版権物
  • 後に矛盾が生まれる可能性アリ
  • 色々あってこの物語はいらない子となった為、突然終了の予感
  • 私は漫画や小説などを作るのは得意じゃない
  • これは創作物だ。実在のものとは一切関係ない

 

前回

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 この家に来て初めてオムライスを作ってみたけど、上手くいかない。
「ごめんな……」
 穴が空いた卵が乗せられた不格好なオムライスをおずおずとフタに差し出し、アタシは謝る。
「知識はあるんだけど、上手くいかなくて……」
 するとフタはアタシの頭を撫でて、笑顔を向けてこう言ってくれたんだ。
「あるのは知識だけだからでしょ。練習すればすぐに上手に作れるようになるよ」
 それから、アタシはフタと一緒に沢山料理をした。

 これは、アタシがこの家に来たばかりの頃の記憶だ。

 朝。
 ボケーとしていたアイはベッドの上で懐かしい記憶に思いをはせ。
 身支度を始めた。

「ねー、あの人怪しい。警察に連絡する?」
 御影荘出入口にて。
 戸からこちらを見つめる男に視線をやり、レンは隣のアイにそう言う。
「う~ん、何か事情があるかもしれないからな……。アタシが話を聞いてくるよ」
「私も行く」
 何か変な動きがあったら、大きな声でボクを呼ぼう。そう思いながらレンは付いて行くと。
 不審な男性はアイから「あの、お客様? 何か用ですか?」と声を掛けられ、あからさまにキョドった。
 そしてしばらくオロオロした不審者は、大きく深呼吸をし。
「アイさんの事が好きです! 付き合ってください……!!!」
 と、告白をしたのだ。

 

 話を聞いてみれば、一目惚れだそうだ。
「アイのどこが好きなの?」
 レンは単純に気になったからそう聞いてみた。すると、男性は目を輝かせ
「あの素晴らしいバストですね!」
 と語り始め、レンとアイは引いた。
 そしてレンは腐った果物を見る様な顔になり
「キモ……」
 と言いかけた所でアイに口をふさがれる。
 そこに
「あれ、どうしたの? 何かあったのかな?」
 と、フタがニコニコやって来た。
 玄関が何か騒がしいと思って様子を見に来たのだ。
「あ、フタ。この人がさ……」
 アイはフタに事情を説明する。するとフタは何とも複雑な顔をした後。
「アイの好きにしたらいいよ」
 と、アッサリ気味に言って去ってしまった。
 むしろレンが「え?」と唖然とする。
 アイがフタの恋人としてやって来たEVEという事情は聞いているからだ。
 そしてアイは、立ち去るフタの背中を悲しげな顔で見つめ。
 しばらくすると男に向き直り「アタシ、好きな人がいるから。ごめんな」と、困った笑顔を向けたのだった。
 レンはトボトボ帰っていく男の背中を見送った後、再びアイの顔をジッと見つめた。

「フタってさ、なんでアイの事避けるんだろう」
 シンと一緒にタオルを畳んでいる時。レンはアイが告白をされた時の話をした後、そう口にした。
「アイはフタの恋人としてこの家に来たんだよね?」
「そうだね」
「なのになんで……」
 レンはムスっと怒った顔をしていて、シンはそれを見て『レンちゃんはアイちゃんの事を想って怒ってるんだろうなぁ~』などと思っていた。
「昔はね、すごくラブラブだったんだよ」
「ほぉう……」
 詩葉から少し聞いてはいたが、やはりイチャイチャしていたのかとレンは思う。
「でもね、何だか段々フタ兄様がアイちゃんを避け始めてさ」
「アイはフタが好きって雰囲気出してるのにね」
「ね~」
 そう言ってお互い顔を見合わせる。
「なんかあったのかな?」
「う~ん。僕はよく分からないや。でも、フタ兄様は何か思う所があるのかもね」
「思う所……」

「レンちゃん、何かな?」
 フタが困った顔で、壁に身をひそめるレンに話しかけた。
「……気が付いてたの?」
「うん」
 レンは壁から顔を出してフタに近寄った。そして「そっか」と言って、ジーとフタを見つめる。
「えっと……?」
 さすがにフタもたじろぐ。
「……フタってさ、アイの事嫌いなの?」
 ようやっと口を開いたレンのストレートな言葉に、フタは視線を外した。
「そんな事は……ないけど」
 そんなフタの顔を、レンは因縁を付けるように覗き込んで来る。
「ホントにぃ?」
「ほ、本当だよ!」
 レンの視線から逃れる様にフタは動きながら返事をした。
「じゃあ、なんで泣かす様な事いうの? 嫌いじゃなくても好きでもないから?」
「え?」
 アイを泣かしたっけ? と、泣かした覚えなどないフタは記憶を色々と思い返す。
 しかし、そんな記憶はない。というか、EVEはチップの所業であまり泣かない。*1
 もちろんアイもそうである。
 ただその代わりにレンがそう言う心当たりを思い出し、フタは顔を暗くさせた。
「アイのおっぱいが好きで告白してきた男が来た時……」
「はぁ?! アイツそんな理由で好きとか言ってたの?!」
 どこが好きとかの話は初耳なフタがあからさまにキレる。
「うん」
 そう頷いて、レンはしばしフタを見つめ思案してから続きを話した。
「アイ、多分……いや、絶対泣いてた。
 チップがあるから涙だって流れなかったけど、フタが好きにすればいいって言った時、泣いてたよ」
 そして「どうしてフタはアイを避けるの?」と不満をぶつける。
 フタはしばし考えて……。
「夜、夕食後。僕の部屋に来てくれる?」
「お? いいけど」
 レンは何やら秘密の話かな? と思いながらその時間までいつも通り過ごした。

 


 

次回

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*1:自分の所有するEVEの泣く姿が見たいなどあれば、その限りではないと思うわ

EVE#030『ボク』

注意

  • この物語の元となったのはとある版権物
  • 後に矛盾が生まれる可能性アリ
  • 色々あってこの物語はいらない子となった為、突然終了の予感
  • 私は漫画や小説などを作るのは得意じゃない
  • これは創作物だ。実在のものとは一切関係ない

 

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「レンちゃ~ん。今度一緒にプールに行こうか?」
「うん、行く」
 シンは積極的にレンと二人でのお出掛けの約束を取り付け。
 そしてボクは遠巻きにその光景を見ている事が多くなった。
「嫉妬するねぇ?」
 フタがそんなボクに対し、茶化すように話し掛けるが。
「別に、そんな事はありませんよ」
 と涼しい顔だ。
「そうなの?」
 フタは意外そうな顔をしてから少し考え。
「でも、ボクってずーっとシンに付きっ切りだったし、ここらでちょっと距離を取るのもいいかもね」
「距離ですか」
 ボクは少し考えながら答える。
「うん。シンもあんな感じだけどしっかりはしてるし、子離れする頃だと思うんだよね~」
 そんなフタの言葉に「考えておきます」とだけ答えてボクはフタから離れた。

『そう言えば、レンが来るまでずっとシン様と一緒だったな』
 フタから離れたボクは、ふとそう思い返す。
『正確には、あの日から……』

+++

 私はそこそこ名の知れた、とある家庭に生まれた。
 母は私を身ごもると、私より数歳だけ年齢の高いEVEを私の姉として、そしてお手伝いをしてくれる道具として購入した。
 名前はトモ。大人しく、笑顔の可愛い子だ。
 私は初め姉としてトモに接し、良く懐いていた。
 教育に厳しく、将来も自分で決めさせてくれない様な両親だったが、トモはいつも私に優しく接してくれたし味方でいてくれた。
 ただ、その関係性は段々と形を変えていく。
 両親の言いなりになりまるで人形の様な彼女が、自分の意思という物を持たない彼女が、親に敷かれたレールを歩き続ける自分を客観的に見ているようで嫌悪感を抱くようになったのだ。
 更に無条件に私に優しいEVEとしての性質も気持ち悪いと感じ、私は徐々に彼女を避け始めた。

 ある日。
 トモは転びそうになった私を庇い、怪我をした。
 大した怪我ではない。ただの擦り傷だ。
 だが、この時私の中で我慢していた感情が弾けた。
「庇ってなんて言ってない、EVEなんて気持ち悪い!」
 気が付いたら、大丈夫かと私を心配するトモにそう投げかけてしまっていた。
 それからトモは私の気持ちを察してか、距離を置く私にあまり接さない様にになり。
 それから1年足らず。
 仕事で出掛けていた両親が事故に遭い死に。
 親族が色々と揉めたり私をどうするかで言い争っている内に、トモは中古としてメーカーに売却された。
「また会おうね」
 別れの時にトモはそう笑って去って行った。

 私と言えば親戚の家をたらい回しにされ、居場所もなく、毎日辛い思いをしていた。
 そんな中で私はトモの笑顔を思い出しては、会いたいと願うようになった。
 あんなに拒絶していたのに。

 11歳になる年の初め。私は御影家にやって来た。
 一人で過ごそうとしている私に、御影家の人々は家族の様に優しくしてくれた。
 正確には、私の本当の両親より優しかった。
 教育は特に厳しくないし、学校のテストでいい点が取れれば百点でなくったって褒めてくれる。
 そしてシン様にいたっては1個上の私をよく気にかけ、積極的に話し掛けてくれたし。
「僕ね、探し物を見つけるのが得意だよ!」
 と、能力の事もあっさり話してくれた。

 梅雨が明けた頃。
 御影家にEVEの少女がやって来た。
 サチだ。
 私は訳ありの彼女の境遇を、偶然武蔵様と詩葉様が話しているのを聞いていたので知っていた。
 そしてサチを見ていたら、トモの事がとても心配になったのだ。
 だから私は夏休みに入ってすぐに武蔵様達ではなく、シン様に写真と共にトモの存在を打ち明けて探してほしいと頼んでしまった。
 シン様は早速探してくれた。
 運が悪い事に、その場所は子供でも電車を使っていける場所にあった。

 私達はトモ探しを他の人間に話す事もないまま電車に乗り、歩いてとあるビルの中に入っていった。
 そして……。

 シン様は背後から棒で殴られて頭から血を流し倒れ、私は何人かのガラの悪い男達に囲まれた。
 私は必死でトモを探しにここまで来た事、ここでの事は誰にも話さない事、私達を助けてほしいと訴えた。
 それを聞いた男達は下卑た顔で私にある映像を見せてきた。
 トモに会わせてやると。

 映像の中の彼女はボロボロだった。
 そんな彼女の唇がかすかに動く。
『ごめんね、ボク。約束が守れなくて……』
 そして彼女は動かなくなった。

 確かにトモはここに居た。
 だが、私達が来た時にはすでに……。
 私が感じた嫌な予感は当たっていたのだ。

 私は頭が真っ白になり、気が付いたら……赤い瞳をした黒髪の女性が立っていた。
 そして男達を刀で切りつけていく。
 不思議な事に、倒れて行く男達の体から血は流れない。

 残り一人になった時、私は彼女を止めた。
 最後は私にやらせてほしいと。
 彼女はしばし私を見つめ。
 私の後ろに立ち、私の手に刀を握らせると手を添え――。

 男達は全て倒れた。
 それを見届け、スマホでどこかに電話をした後、立ち去ろうとする彼女の手を私は引く。
 そして願ったのだ。
 私にも貴女の様な力が欲しいと。手ほどきをしてほしいと……。
 彼女はしばらく考えて。
「じゃぁ、私の力を半分あげる」
 と、私のおでこにキスをした。
 私の中に何かが流れて、ふと彼女の瞳を見ると、赤かった瞳は黒くなっていた。

 それから、私と彼女・毬華の交流が始まった。

 その後は毬華が呼んでくれた救急車が来て、私とシン様は病院に運ばれ。
 救急隊員が呼んだ警察によりあのビルで行われた悪事は暴かれ、トモも回収された。
 そして武蔵様と詩葉様は、御影家の墓にトモを入れてくれた。

 シン様は血が結構出ていて貧血になっていたが、奇跡的に傷は深くなかった。
 ただ、病院で目が覚めたシン様は今の様なポヤポヨとしたア……。
 ホンワカした顔になっていたが。

 すべて私の責任だ。
 だから御影家にいる間は、シン様に誠心誠意尽くさねばならない。


 俺は人間の玩具のEVEが大嫌いだ。
 だけどそれより嫌いなのは、彼女らをどんな風に扱っても大した罪にならないと、自分の快楽の為に扱う人間だ。

+++

「そういえば、シン様からの誕生日プレゼントが初めて食べ物だったな」
 シンからのプレゼントを皆に分け与えたのも初めてだ。
 そしてボクはフタの言葉を思い出す。
「子離れか……」
 ボクはしばし考えると、息を吐いた。
「ま、シン様だけではなく、私はいつかは御影家からも距離を置く事にしようとは思っていますけどね……」

 

***

 

 8月の終わり、レンのスマホが震えた。
 父からメッセージが届いたのだ。

遅くなったけど、ハッピーバースディ・レン
これは私からのプレゼントだよ

 という文字から始まるメッセージには、ファイルが付属されていた。
 レンが開いてみると、自動で何かをインストールし始める。
「お? 変なアプリじゃないだろうな……」
 レンはやや警戒し、メッセージの続きを読む。

このアプリはアッシュに作ってもらった物なんだけど
やっと安定して使えるようになったからレンにあげる事にしたんだ
機会があったら使ってみてくれ
じゃぁ元気でな、レン

父より

 レンはインストールし終えたアプリのアイコンをタップし、取説を読み始めた。

 


 

補足

 ボクの家系は執事とかボディーガードとかで、金持ちとか政治家とかを代々守って来たとかなんかそんなのを想像してる。

 ボクの心の一人称の話だが。
 誰かと話す時も心の中も『私』にした後、毬華の前では一人称を『俺』にするかー。
 とかして矛盾したが、まぁ心の一人称もなんか一緒にいる人とかくつろぎモードとか、なんかそんな感じで変わるって事にしておいてくれ。

 

次回

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EVE#029『ボクの誕生日』

注意

  • この物語の元となったのはとある版権物
  • 後に矛盾が生まれる可能性アリ
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『もうすぐ、俺の誕生日だな』
 そう思いながらボクがビルの屋上から花火を眺めていると。
「もうすぐボクの誕生日ね」
 と、隣にいる毬華がまるで心を読んだ様に言う。
「そうだな」
「プレゼントあげる」
 そう言ってポケットから取り出したのは、微妙に可愛くないキャラクターのぬいぐるみストラップである。
 ボクは有難く受け取ると、それをまじまじと見つめて
「これ、この間毬華がやってたUFOキャッチャーで、狙っていた物の代わりに取れた物だよな?」
「そうね。私はいらないから」
 毬華は特に悪びれた様子もなく花火を見つめ。
 ボクはため息を付いてマスコットをスマホに付けた。

 

これは、夏祭り数日前の事である

 

「ケーキ、何がいい? 食事も何かリクエストある?」
「なら、シン様が食べたい物でお願いします」
 ボクのその返事に、詩葉は怒った様な顔を向ける。
「私は、ボクが食べたい物を聞きたいんだけど?」
 しかしボクは涼しい顔だ。
「私に好きも嫌いもアレルギーもありません。なら、シン様が食べたい物にしてくれた方が都合がいいので。
 そもそも、去年も同じ事を言ったかと思いますが?」
「去年と同じ返事を変えすけど、もしかしたら別の返事が聞けるかもしれないでしょ?」
 そう言って詩葉はため息を付くとシンの元に向かった。

「ボクって変わってるよね」
「そうですか?」
「うん」
「まぁ、シンの事が大好きだよなぁ~」
「ね。女の人好きなのかな?」
 夜。アイの部屋でEVE達とレンがそんな会話をしていた。
「そういえば、基本敬語で喋ってるのに私達にはタメ口だよね」
「そうですね。でもサチは親近感があって嬉しいです」
「そうなの?」
「はい!」
「まぁ、対等に見ている感はあるよな」
 アイもそう答える。
 そしてレンは、ここのEVE達はボクに対し愛着があるんだなと感じつつ、スマホの画面に目を落した。
 ボクの誕生日プレゼントを考えていたのだ。
「スーパーボールくらいの物……」
 レンの誕生日前。
 御影家の面々がボクのプレゼント選びを始めた時。レンも渡すかと聞かれたのだが、彼女はボクから自分の誕生日にプレゼントを貰ったら考えようと見送っていた。
 結果。ボクがプレゼントを渡してきたので、こうして今選んでいるワケだが。
 レンとしては、自分への誕生日プレゼント以上の物をプレゼントするのは癪に障るのでそれと同価値くらいの物がいい。
 更に。
「プレゼントをくれるなら、食べ物か消耗品でな」
 ボクは、シン以外にはいつもそう言っている。
 だからレンはリクエストの中からよさげな物を探していた。

 しばらくして。
 ある程度候補を絞れたレンは「おやすみ~」と、アイの部屋を後にした。


 次の日の昼前。
「そういえば、シンはボクのプレゼント何にしたの?」
 仕事で一緒になったシンにレンはそう聞いた。
「大きな水槽の形の寒天にしたよ。僕がプレゼントして皆で食べよって言えば全員に分けてくれるだろうし」
「食べ物なんだ?」
 レンは不思議そうにそう返す。
 シンはいつも食べ物&消耗品以外が許されてると聞いていた為だ。
「うん……。ボクって僕がプレゼントしている物、押し入れに貯め込んでるみたいなんだけど……、古い物も消耗品も、捨てずに取っておくみたいで。
 僕が捨てちゃっていいよって言っても、取っておくし。
 ミニマリストなのに」
 そう言ってシンは肩を落とす。
「数年前から実用性がある物を送っていたんだけどね、今年は食べ物にしようかなって」
「おー、確かにちょっと重いかもね」
 シンは困った顔で笑うのだった。

 

そして、夏祭り最終日の次の日

 

「明日はお主の誕生日か」
 冷房が効いた御影家のリビングにあるローテーブルで毛繕いしていたホーは、やって来たボクにそう話し掛けた。
 ボクは「まあな」と答えると、ソファーに座ってスマホをいじる。
 ちなみに近くに武蔵と詩葉はいないので、ホーは心置きなく喋っている。
「ワシも何かプレゼントをやろうか?」
「……どっちでもいい」
 ホーはしばらく、ふ~んと言いたげな顔で毛繕いを続け。
「所で何だ? このマスコットは。不細工なキャラだな」
 スマホに付けられたあまり可愛くないマスコットに、ホーはストレートに突っ込み。
「そうだな」
 ボクも否定せずに受け入れた。
「ワシの方が可愛いな」
「自意識過剰と言いたい所だが、まったくだな」
 まぁ、ホーの外見はとても愛くるしい鳥なので、ボクも(ホーが取り分け危険でもなさそうと分かったのもあり)否定はしなかった。
「話は変わるが……」
 ホーは毛繕いをやめて顔をボクに向けた。
「お主、『モノノ怪憑き』だよな?」
 ボクが普通の人間ではない事は、出会った時から分かっていた。
「どうだろうな」
 ボクは特に動じずスマホを操作し続ける。
 しばらくするとボクが立ち去り、入れ替わりでシンがやって来た。
「そう言えば、お主も何か奇妙な気配を感じるな」
「えへへ~、ホーには分かっちゃうか」
 シンの呑気な返事にホーは呆れる。
「一応聞いておくが、レンに危害が及ぶような物ではないよな?」
「う~ん……」
 シンが困るので「危害が及ぶのか?!」とホーが慌てた。
「危害って言うか、物理的な危害はないよ。
 でも……。まぁ、多分大丈夫!」
 ホーは本当に大丈夫なのかと、不安げに目を瞑ったのだった。

 8月15日。ボクの誕生日当日。
 テーブルにはご馳走が並べられ、ケーキとしてシンからのプレゼントのデカデカとした水槽寒天が中央に置かれ、その隣にはフローティングフラワーが置かれていた。
 ちなみにこのフローティングフラワーは、ホーからのプレゼントである。
 何かを察した武蔵がホーを手伝い、ホーが選んだ花を浮かべて作ったのだ。
「おー、デカイ」
 席に着いたレンはテーブルの真ん中に置かれた水槽寒天に感嘆の声を漏らす。
「寒天だけじゃコッテリ感がないから、ハーゲンダッツのアイスも用意したわよ。食後に出すからね」
「おー、豪華」
 そんなやり取りの中、フタが記念にと写真を撮り。そして撮影が終わった頃、ボクは「切るぞ」と寒天をナイフで切り分け始める。
「……。なんかシンのだけ、色々入ってる」
 レンは取り分けられた寒天を見てそう呟く。
 シンのだけ魚や海藻を模した練りきりが多く入っていた。
「シン様からのプレゼントなんだから当然だろう」
 ボクが静かに答え、食事が始まる。
 ブロッコリーやミニトマトなどで飾りつけされた卵入りのポテトサラダ*1、カボチャの冷製スープ、ミートボール入りシーフードパスタを食べ終わり、最後にアイスと寒天を食べ始めた頃。
「僕の少し食べる?」
 シンが寒天の魚の部分をスプーンですくって、レンに差し出した。レンが羨ましがっていたからだ。
「食べる」
 レンはそう言うとパクリとシンから差し出された状態で食べ、シンはエヘエヘと喜び、詩葉は「仲がいいわね~」と言い、ボクは呆然とそれを見ていた。

 ちなみに。その後始まったプレゼント開封タイムは。
「はい」
 レンはそう言って剥き出しのティッシュペーパー(鼻セレブ)の箱を差し出し。
「鼻が痛くならない、すごく使いごごちがいいティッシュだよ」
 と、謎に得意げに説明し。
「知ってる」と言いながらボクは受け取った。

 次の日。
「それじゃぁ、また御影荘をよろしくね」
 荷物を床にまとめ家の中で家族と共にタクシーを待つ詩葉が、イツにそう告げる。
 彼女らは、レンに会い、夏祭りを楽しみ、ボクの誕生日を祝う為に少しだけ帰って来ていたので、今日から再び旅行を再開するのだ。

 しばらくするとタクシーがやって来て、詩葉と武蔵が荷物を持ち玄関を出ようとした時だった。
 あっ! と詩葉が声を上げる。
「レンちゃんに渡す物があったんだった!」
 詩葉は慌てて荷物をその場に置き、バタバタと自室に向かい。
 戻って来た彼女は、息を切らして手にした紙の束をレンに差し出す。
「はいこれ。レンちゃんのそっくりさんが載ってる雑誌のコピー。
 科学雑誌なんだけど、私が昔見た物なの。興味があったら読んでみて」
「うん」
 そう言ってレンは貰った紙を見つめつつ。
「行ってきま~す」
「行ってきます」
 と玄関を出る二人に皆と共に行ってらっしゃいの声をかけ見送った。

 レンは詩葉からもらった雑誌のコピーをじっと見ている。
 そこには生物や遺伝子の研究をしている研究者数名の写真が載っていた。
 レンはその中の、灰色掛った茶色の髪の背の高い男と銀髪の女性の写真を見つめている。
「ジョージ・アーバン、涼森小雪(すずもり さゆき)……」
 レンはしばらくすると、スマホでこの雑誌を調べ。
 まだ販売していると知ると購入した。

 


 

 アイちゃんの部屋はギャルっぽい部屋なのだが、私はギャル部屋の描写が出来ない!
 が、多分『その着せ替え人形は恋をする』の海夢ちゃんの部屋から、ヲタ要素を取り除いた感じだと思うわ。

 

次回

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*1:クリスマスのモミの木みたいになってるヤツ

EVE#028『夏祭り』

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 今日は夏祭り初日。
 といっても、御影荘は営業中なので昼間祭に出かける事はない。
「暑いしね」
 レンは仕事をしながらそう呟いた。
「さっちゃんは夜、お友達と一緒にお祭りに行くって言っていたわよ。レンちゃんはどうするの?」
 そう、レンの隣にいた詩葉が聞いてくる。
 夜ならば、お祭り会場は混んでいるが御影荘はもう閉めてる。好きに出掛けても大丈夫なのだ。
「シンと一緒に出店を回って花火を見る約束した」
「そっか。浴衣、着てみる?」
「んー、着てみようかな?」
 そう詩葉とレンが話をしていると、アイが通りかかったので詩葉は「アイちゃんは今夜のお祭りどうする?」と聞く。
「アタシはいいや」
 そう言って立ち去るアイの背中を詩葉はため息交じりに見送った。
「昔はフタと一緒に浴衣を着て出かけたのにねぇ」
「そうなんだ?」
「そうなのよ。あの子はフタの恋人として来た子だし、昔はフタといつも一緒だったのにね」
「ふ~ん」
『今はなんかよく分からんが、フタがアイを少し避けてる気がするな?
 何かあって熱が冷めたか』
 と、レンは考えて終わった。

 夜。
「行ってきます」
 まずはサチがそう言って、御影荘に来たバスに乗り家を出て数分後。
「行ってきまーす」
「行ってきます!」
 今度はお互い浴衣を着たレンとシンがそう言って家を出ると、バスに乗り込んだ。
 ちなみにこのバスは大き目の一般乗用車程度であり、どちらかというとタクシーに近い。
 しかし完全予約制のバスとして低価格で乗れるように市が運営している、立派なバスである。
「浴衣、乱れないかな?」
 椅子に座ってシートベルトを付けたレンはちょっとだけ心配でそう呟く。
 ちなみに着付けは詩葉がしてくれた。
「大丈夫だよ。もし帯がほどけちゃったりしても、僕が直せるから」
「そうなの?」
「うん。何気に子供の頃から男性のも女性のも着物と合わせて着付けを教わってたからね」
「ふ~ん。シンって見た目によらず凄い所があるよね」
 そう言ってレンはポヤポヤした見た目の癖に、木の選定を綺麗にしていたり、書類整理などの雑務を素早く行っていたりする姿を思い出す。
「うぅ、確かに見た目はこんなだけど……」
 こうしてバスは途中で乗客を乗せつつ、お祭り会場の手前までやって来た。
 ちなみにシンが車を出さなかったのは、駐車場が限られており混み合うからだ。
 このバスならお祭りの日は本数を増やすし相乗りもできるので、楽に祭り会場まで行き来ができる。*1

「さて、どこから回ろうか?」
「いっぱいお店あるね。人もいっぱい……」
 レンはぐるりと周囲を見渡す。
「一旦お店を全部見てみる? 移動は大変になっちゃうけど……」
 レンはお小遣いを持って来ているが、それには限りがある。
 だから、目に付いた気になる物を買っていくと、恐らく後半買えない物が出て来る。
「そうだね」
 そう言って歩き出し。
「あ、そうだ。シン、手を繋ごう? ここではぐれるのはちょっと不安だし」
 そう言ってレンはムンズとシンの手を取り、彼が顔を真っ赤に染めたのにも気が付かずに歩き出した。

 レン達がお店を一回りし、欲しい物を買っている頃。
 詩葉と武蔵が花火を見に二人で出掛け、しばらくすると出店で買った食べ物を持ったサチが帰って来た。
 花火が上がる前に友達と別れ、一足先に家に戻ったのだ。
「アイちゃん、頼まれていたイカ焼きです!」
 サチはリビングにいたアイに、頼まれて買ったイカ焼きを渡した。
「サンキュー。じゃぁ、お金」
 そう言ってアイはスマホを操作し、電子マネーをサチに送金する。*2
「こんなに高くなかったですよ?」
 送られて来た金額を見てサチはそう言うが
「買ってきてくれたお駄賃だよ」と、アイはイカ焼きを持って部屋に行ってしまった。
 サチもいつもの事なので特にごねず、次はイツの姿を探す。
 ほどなくして事務所で雑務をしていた彼の姿を見つけたサチは
「イツさん。これ……」
 と、広島のお好み焼き、大阪のたこ焼き、りんご飴、チョコバナナを差し出した。
「あの、もしよかったら今年も一緒に花火を見ながら食べませんか?」
 サチは毎年、人混みが苦手でお祭りに行けないイツの為にこうして出店で食べ物を買って、花火を見ながら一緒に食べているのだ。
 イツは「そうだな」と頷き作業を終わらせると、花火が見える2階の外にある廊下にキャンプに使う小さめの椅子とテーブルを持って移動した。

 レンが出店で買った食べ物をベンチに座りモシャモシャ食べていると。
「そろそろ花火が上がるよ」
 と、スマホで時計を見ていたシンは「こっちだよ」とレンの手をまごまごしながらも取って花火観覧ポイントのまで案内し。
 ほどなくして、花火が上がる。
「おー、相変わらずすごいうるさい。声、聞こえない……」
 そう悪態を付きつつも、レンは空に上がる花火に感動していた。
 梅雨が明けてから花火が打ちあがる事が多かったが、どれも遠くでこんなに間近で見たのは初めてなのだ。
 シンはしばらく感動して目をキラキラさせてるレンを見ていたが、「来年も一緒に見れるといいなぁ」と呟いて花火が次々と上がる夜空を見上げた。

「ねぇ、あれシンとレンちゃんよ」
 花火を見に来た詩葉が隣の武蔵の耳元でそう言う。
 指さす少し離れた場所には、シンとレンが立っていた。
「本当だ。でも、声をかけるのはやめよう」
「邪魔しちゃ悪いものね」

 一方御影家では。
 サチとイツは外廊下に椅子とテーブルを置き、サチが買ってきた物をシェアして食べながら花火を見て。
 アイはまだフタが仲良くしてくれた頃を思い出しながら、部屋の窓からイカ焼きを食べつつ一人で花火を眺め。
 フタは花火の音が聞こえ出してからゲームをしていた手を止め窓の外を覗き、花火を見ると少し悲しげな顔をして、でもすぐに何事もない様な顔で再びゲームを始め。

 そしてボクはビルの屋上で毬華と共に花火を見ていた。

 

シンの兄達の呼び方

 シンは兄を兄様と呼び、両親の事は父様母様と呼んでいる。
 シンだけ。
「そういえば、何か理由があるの?」
 レンはシンのポヤポヤした顔と何か関係があるのかと、シン本人に訪ねてみると。
「あ~、僕が幼稚園の頃にね」

+++

 フタは6歳の弟に「うちのご先祖様は貴族なんだよ」と突然話を始めた。
「きぞく?」
 シンはよく分からなくて聞き返す。
 すると「僕達のお祖父ちゃんのまたそのお祖父ちゃんの、ずーっと昔のお祖父ちゃんは、貴族っていうすごく偉い人だったんだ」
 とフタは簡単に説明し、シンは「すごーい!」と目を輝かせる。
「でね、貴族は……」

+++

「フタ兄様から「貴族は家族を呼ぶ時に様を付けるから、シンもそうした方がいいよ」ってそそのかされて、それで僕分かったってそう呼ぶようになって……。
 後でそう言えば他の家族はそういう呼び方はしてないし、騙された! って思った頃にはすっかりその呼び方が馴染んでて、今に至るってワケ」
「ふ~ん。間抜けな理由だね」

 


 

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*1:この時代ならAIもかなり発達してるし、完全無人化もしてるかも

*2:こういう時程現金でのやり取りより電子の方がいいかな? って電子にした。時代も今より未来だし。ちなみに私は電子マネー、ない

EVE#027『帰って来た父と母②』

注意

  • この物語の元となったのはとある版権物
  • 後に矛盾が生まれる可能性アリ
  • 色々あってこの物語はいらない子となった為、突然終了の予感
  • 私は漫画や小説などを作るのは得意じゃない
  • これは創作物だ。実在のものとは一切関係ない

 

前回

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「これはまだボクがこの家に来たばかりの頃の写真ね」
 そう言いながら詩葉はレンに幼いボクとシンが一緒に映った写真を見せる。
 ホーも興味津々という感じでレンの肩に止まって覗き込んだ。
「あー、そう言えばボクって小さい時にこの家に来たっぽいね」
「あら? もうちゃんと聞いてた?」
「サチがこの家に来た年に来たって事は知ってる」
「じゃぁまだ良くは知らないんだ?」
「うん」
 特に知りたいとも思わなかったしな。とレンは思いながら頷く。
「ボクはねぇ、子供の頃にご両親が亡くなってしまって、引き取りで揉めて親戚をたらいまわしにされててね。
 御影家とは血繋がりもないくらい遠い親戚だったんだけど、子供として引き取って育てる事にしたのよ。
 本人の希望で名字はそのままだけどね」
 割と重めの話だが、レンは「おー、アイツにそんな過去が」と少し驚いた程度である。
「執事っぽいから、そういう家の出で御影家に子供の頃から出稼ぎに来てたとかだと思ってた」
 レンのその言葉に詩葉は笑って「確かにそう見えるわよね~」と言った。
「そうそう。ボクは不愛想に見えるけど、とても優しい子だから嫌いにならないであげてね?」
「んー、頑張る。所で」
 レンは写真に目を落す。
「シンの顔が変……っていうか、普通。今はこんなんじゃないのに」
 子供の頃のシンは、今の様なポヨポヨした顔をしていない、何と言うか普通の男の子の顔をしていた。
「あー……」
 詩葉は困った顔を向け、頬に手をやる。
「シンはね……、ボクがこの家にやって来た年にね、ちょっと事件に巻き込まれちゃってね」
「事件?!」
 さすがのレンもびっくりだ。しかしホーは何か考え込んでいる。
「びっくりしちゃうわよね。でも安心して! もう犯人も捕まってるし、解決済みだから! けどね……」
 詩葉はシンの、顔が今より何と言うかポヨポヨしていない写真にちょっとだけ申し訳なさそうな顔を向ける。
「その時にね、頭を打って……。思考能力に問題はあまりなさそうなんだけど、顔がね、ちょっとホンワカしちゃったのよねぇ……」
「ほー……」
 レンは、そんな事もあるのか……。とシンの写真をまじまじと見つめた。

 しばらくしてから、詩葉は気を取り直し写真を切り替えていく。こまごまと説明しながら。
 そして。
「あっ、ほら。これはフタが高校の時、劇でお姫様をした時の写真よ! 可愛いでしょ?」
 その写真には、美少女と見紛うばかりの眼鏡を取ったお姫様姿のフタが映っていた。
「お~、スゴイ」

 そうやって午前中、二人は写真を見て過ごした。

 お昼。
 レン、ホー、武蔵、詩葉の三人と一匹は冷や麦を一緒に啜っていた。
 ホーだけは普通の鳥のふりをしているので、切ったそのままの野菜を食べているが。
 すると「ほら、コレコレ。夏祭り」と、詩葉は自分のスマホ画面をレンに見せた。
 そこには12日と13日に開催する夏祭りの案内が映し出されている。
「夏祭り……」
「色々な出店が出て楽しいよ」
「食べ物売ってる?」
「もちろん! 夜は大きな花火が上がるんだよ」
「おー、あのうるさいの」
 そんな会話を聞きながら、ホーは人語を話さず静かに細かく切った野菜をつついていた。
 武蔵と詩葉にはレンの事情を話していないし、ホーの事も何も言っていない。
 だから『ワシも冷や麦が食べたいんだがな』と思いながらも大人しく野菜をつつく。
「ホー。これ、私の冷や麦食べるかい?」
 レンと詩葉が夏祭りの話で盛り上がっている最中、武蔵はヒソヒソ声でそう言うとホーの器にコッソリ冷や麦を少しばかり盛り付けた。
 ホーがいいのか? と言いたげな顔を向けると
「いいんだよ。ほら、詩葉に見つかる前に食べてしまいなさい」
 と言われ、ホーは遠慮なく冷や麦をすすった。

 詩葉とレンはその日沢山一緒に過ごし、夕食後。
 温泉に一緒に入っていた。
 詩葉が二人で入りたいと、レンを誘ったのだ。
 そしてのんびりとお湯につかりながら、詩葉は子育ての事を話始めた。
「子供が多いとねぇ、均等に接してあげたいんだけど中々上手く行かなくてねぇ」
 そんな言葉を聞いて、レンは詩葉がやって来てからを思い起こす。
 詩葉は今日、レンと沢山一緒に過ごしたがレンに付きっ切りという感じでもなく、こまごまとボク含め子供達に均等に接している様に見えた。
 ただ、サチにはちょっとだけ接する頻度が多い気がするが、それはサチの過去も関係しているのだろうと思う程度で違和感は特にない。
「そうなの?」
「そうなのよ~。で、ついつい誰かに構っていると他の子をおろそかにしたりでねぇ」
「ふーん」
「シン達の事とか、ね……。もうちょっと私が気を使ってあげていたら、あんな事にはならなかっただろうな~って」
「そっかぁ……」
 そう返事を返しながら、子育ては大変なんだなぁと思うレンであった。

 詩葉達がやって来て三日目の朝食後。
 レンは仕事を再開した。
「まだ色々遊びたいのに~」
「あまり連続して休ませるのもな」
 名残惜しそうにする詩葉に、イツは窘める様に言う。
 そんな中。
「今日はホームセンターに行ってくるよ」
 と武蔵はマイペースに買い物の準備を始めていた。

「ホー、一緒に来るかい?」
 リビングで退屈気に毛繕いをしていたホーに武蔵が声をかける。
 ホーは顔を上げると『いいのか?』と思いながら武蔵を見た。
「いいんだよ。中にまで連れて行けないけど、それでもいいなら」
 ホーは喜んで武蔵の肩に止まった。

 ホームセンターに付くと、武蔵が「帰る時は呼ぶよ」と行ったのでホーは適度に人と距離を取りパタパタと周囲を巡ったり、木に止まって人々を眺めて楽しんだ。
 ただ、なるべく武蔵の姿は視界に入れていた。
 そして帰り際は呼ぶと言われたが、こんな所で鳥を相手に大声を出したら人目に付くだろうと、ホーは武蔵が店から出ると尽かさず肩に止まった。

 

「武蔵さんとホーオー様はすっかり仲良しだな」
 家に帰り荷物を置くと、ちょうどアイとサチが一緒に居て声を掛けられる。
「そうだねぇ……。この子はほーおー様って名前なのかい?」
「鳳凰様です。レンちゃん達は略してホーって呼んでますけど」
「そうか、鳳凰か……」
 娘二人に囲まれて、武蔵は荷解きをしながらしばし考えると、荷物を持って庭に出て行った。

 

 夕方。
「ほら、ホー用に水浴び場と遊び場を作ったよ」
 木陰に丸くくぼんだ石の水浴び場と、ブランコや止まり木などの遊び場が出来上がっていた。
「使い勝手はどうかな?」
 そう言われホーはしばらく使い心地を調べる為に水場でバシャバシャやったり、ブランコに乗ってみたりとした後、満足して武蔵の周囲をぐるっと飛んで回る。
「喜んでもらえたようで何よりだよ」
 武蔵はそう笑った。

「そういえば、レンちゃんってなんだか見た事がある気がするのよね~」
 夜、寝る前。
 布団に入った詩葉は隣の布団で既に横になり目を瞑る武蔵にそう言った。
「そうなのかい? 少なくとも、私は見た記憶がないよ……」
「確か、昔何かの雑誌で見たような……」
 こうして詩葉は暗い室内の中、スヤスヤ眠る武蔵の横で布団に寝そべり昔見た雑誌をスマホで漁って夜更かしをした。

 


 

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EVE#026『帰って来た父と母①』

注意

  • この物語の元となったのはとある版権物
  • 後に矛盾が生まれる可能性アリ
  • 色々あってこの物語はいらない子となった為、突然終了の予感
  • 私は漫画や小説などを作るのは得意じゃない

 

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「おめでとう~、おめでとう~、ハッピーバースデー・レン~!」*1
 誕生日の歌を歌ってもらい、レンはロウソクの火を吹き消した。

 今日は8月7日。
 レンの誕生日だ。
 ダイニングは飾りつけされ、夕食はいつもより豪勢で、中央に置かれたケーキはレンのリクエストで3段重ねになっている。
 明かりが付けられると早速ケーキを切り分け、レン達は食事を始めた。
「プレゼントは食事の後だよね?」
「そうだな」
 ワクワクした様子のレンにアイは笑顔で答え。
「楽しみだね」
 フタのその言葉にレンは「うん」と頷き、エビピラフをほお張る。
 そんな中、突然サチのスマホが震えた。
 サチがスマホを見ると、メッセージが届いている。
「お父さんとお母さんが、そろそろ帰るって言ってます」
 顔を上げたサチが突然の事に、キョトンとしてそう言った時だ。
 外から車の音がしたかと思えば、玄関の方からバタバタと足音がし
「ただ~いま~!」
 女性が両手に沢山の袋を下げて、リビングに入って来た。

「そう、あなたがレンちゃんね~」
 詩葉(うたは)と名乗るシン達の母は、お腹がすいたからとレンの隣に椅子を持って来て座り、ご馳走をほお張りながらレンにニコニコと笑顔を向けた。
 ちなみに彼女はEVEではない。最後に生まれた人間の女性である。
「すまないねぇ、急に帰って来ちゃって」
 武蔵と名乗るシン達の父も、同じくお腹がすいていたのであろう。ご馳走を食べている。
「まったくだ。帰る時くらいもっと前に連絡をしろ」
 イツはそう言って静かに食事を続けた。
「いやぁね~、シンからメッセージが来てもうすぐレンちゃんの誕生日だっていうから、慌てて帰って来たのよ~。
 あ、プレゼントもお土産とは別に用意してるからね、後で渡すわ」
「もうすぐお祭りもあるし、ボクの誕生日もあるからなぁ」
 そう言って武蔵はアハハと笑う。
「というワケで、明日からしばらく滞在するからよろしく、頼むわよ~?」
 詩葉はそう言うと「ケーキ、おいしいわね~」と早速デザートを食べ始めている。

 そして嵐のようにやって来た父と母は、早々に食事を取り終わりレンにお土産とプレゼントを渡すと、疲れたからとさっさと風呂に入り寝てしまった。

 

 詩葉と武蔵がリビングを出てから、しばらくたった後。
 食事も終わり、とうとう皆からプレゼントを受け取り開封する時間となった時。
「父様と母様のプレゼントは何だろうね?」
 とシンが言ったのもあり、レンは先に詩葉と武蔵二人からのプレゼントを開けた。
「おー、凄い仕掛けのオルゴール!」
 レンはプレゼントに驚きの声を上げる。
 それは夜の町がモチーフの、めっちゃ高そうなオルゴールだ。
 するとシンがモジモジと「この後に出すと恥ずかしいんだけど……」と言い、大き目のプレゼントを手渡した。
 レンが開けると中身は、部屋の中に星や泳ぐ魚などが映し出されるライトだ。
「ありがとう。面白そう」
 そう言ってレンはシンからのプレゼントを喜ぶ。
 続いて残りの皆からもプレゼントを貰っていった。
 アイからは愛嬌のある顔をした赤い体に黒いマントのブードゥー人形*2とツギハギだらけのクマのぬいぐるみのキャラクターのスマホカバー、サチからはマロウブルーや工芸茶など珍しいお茶のセット、フタからは『ドロッセルマイヤーさんのさんぽ神』*3、イツからはカラフルでポップな動物がデザインされたクッキー缶。
 レンは全てのプレゼントに喜んだ。
 そして。
「私が最後になったな」
 ボクはポケットから無造作に何かを取り出すと、レンに手渡した。
「お? くれるんだ。……何これ? なんか入ってる……」
「おゆまるで作ったスーパーボールだ。お湯に入れると形を変えられるぞ」
 ボクからのプレゼントの、いかにもおゆまる(3色セット)をまとめて中に何かを入れて丸められた物を見て
『やっぱ、私の事嫌いなのかな?』
 とレンは思う。
 サチ達の話を彼から聞いてから、少しだけ仲良くなった気がしたのだが。
「お、中身は小さい埴輪フィギュアだな」
 アイが笑いながら答えた。
「ほんとだ」
 レンがスーパーボールの中をじっくりと見て答え。
「ボクさんはいつもこんな感じですよ。シンさんには豪勢ですけど……」
 サチがそっと耳打ちをする。
「ふ~ん」
 そう言ってレンはスーパーボールを手の平で転がした。

 次の日の朝食。
「色々な所に旅行に行ってるって聞いてたけど」
「行ってたわよ~。そうだ、これ食べ終わったら写真沢山見せてあげる」
「んー。でもこれからお仕事だから」
「いいわよ別に! 今日くらいお休みしちゃいなさい!」
 レンと詩葉のそんな話を聞いて、あんまりそういう事を言うなと言おうか言うまいかイツは考え始め。
「いいんじゃない? レンちゃんは世間知らずな所があるし、今日くらい休んで色々学んでもらっても」
 と飲み物を取りに席を立ったフタがそっと耳打ちし。
 レンは仕事を休んで詩葉と過ごす事となったのだ。

 

「そうだ! 昔のアルバムを見せてあげる」
 詩葉はレンに旅行先の写真をあらかた見せ終わった後、手を叩いてそういうや否やバタバタとデータが入った記録媒体を取りに行った。
 それと入れ違いに庭の手入れをしていた武蔵が家の中に入って来て、麦茶をコップに注ぐとレンの近くに座る。
 武蔵は庭いじりが好きだから、特に頼まれなくても暑い中やっていたのだ。
「騒がしくて、嫌じゃないかい?」
「イヤじゃないよ。楽しい」
「そりゃよかった」
 そう笑った後に。
「所で、この子は随分と賢いね」
 と、武蔵に付いて庭から家の中に入って来て、今はテーブルの上にちょこんと座るホーを見やった。
「そう。ホーは凄く賢くて、人懐っこい」
 ホーは気まずげにしている。
 しばらくして、武蔵は小休憩が終わると麦茶を飲み干しまた庭いじりをする為に外に向かったが、ホーは今度は外に出ずにテーブルに座ったまま寛いだ。
 そこに「お待たせ~」と詩葉が戻って来て、レンとついでにホーはシン達が幼かった頃の写真を見せてもらう事になった。

 


 

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*1:このお誕生日の歌は『LAST EXILE』に出てきた歌をうろ覚えで書いた物

*2:これは私が昔、百均で買って持っていた物

*3:『ドロッセルマイヤーさんのさんぽ神』は実在する