- この物語の元となったのはとある版権物
- 後に矛盾が生まれる可能性アリ
- 色々あってこの物語はいらない子となった為、突然終了の予感
- 私は漫画や小説などを作るのは得意じゃない
前回
6月に入り、雨が降る日が多くなった頃。
レンは黄色いカエルのレインコートを着て、空色の長靴を履き、長靴と同じ色の傘を差して御影家を一人で出た。
お給料で買った雨具を付けて、一人で散歩する為に。
この町にだいぶ慣れてきたという事で、レンは少し前に一人で外出をする許可を出してもらっていたのだ。
ボクからは「お前、他のEVEと少し違うからな。ばれない様にしろよ」とは言われたが。
なお、レンは御影家の面々に自分が普通のEVEじゃないとは言ってない。
しかし。
『気を付けていなかったし、すぐにバレただろうな』
程度には考えており、更に。
『大事にならなくてよかった』
などとも思っていた。
そういう事なので、レン自身も御影家以外の人々にバレるのはあまりよろしくないと、普通のEVEっぽくしようと気を付けていた。
「あら、レンちゃん。可愛いわね」
「うん」
道を歩いていると近所に住んでいて御影荘の温泉によく浸かりに来るお婆さんに話しかけられて、レンは嬉しそうに頷きレインコートを見せ付ける。
「それに何だか金運が上がりそうだわ」
「ん?」
お婆さんが何だかよく分からない事を言い出したので、レンは首を傾げた。
「あぁ、レンちゃんは知らないか。黄色いカエルはね……」
お婆さんから黄色いカエルは金運が上がるという話や、他の金運が上がるとされる物の話を聞き終えたレンは、アジサイの花を写真に撮ってお菓子を買って帰って来た。
「ただいまー」
「お帰り~。レンちゃんは雨の日もなんだか楽しそうだね」
「んー。元々いた場所は雨が降っても、こんなに長く続かなかったから新鮮」
その分虹は沢山見る事ができたのだが。
「そういえば、この家には招き猫がいないね」
お婆さんから金運UPの話を聞いた時にされた、お店によく置いてあるという招き猫の話を思い出してレンは聞く。
「あー。昔はあったんだけどね、今は猫禁止なんだ~」
「そうなの?」
「うん。あ、でもレンちゃんが持つ分には大丈夫だからね?
でもあまり部屋から持ち出す感じはイツ兄様が嫌がるかも……」
「ふーん」
イツは猫が怖いのか? とレンは思いながらこの話を受け流した。
*
「EVEによる初の殺人事件が起きてしまいました」
夕食時にテレビに映し出されたアナウンサーが、焦った様子で緊急速報を読み上げる。
御影家の一同も、箸を止めてBGM代わりに付けていたテレビの方に思わず視線を向けた。
しかしホーとボクだけはピクリと反応を示した物の、特に食べるのを止める事無く静かに食事を続けているが。
そしてレンはというと、口に入れていた肉じゃがを急いで飲みこんで耳を傾けた。
ニュースによると事件が起きたのは日本から遠く離れた海外で、殺人を犯したEVEはチップが完全に機能していなかった。
そしてそのEVEは所有者から虐待を受けており、殺されたのは虐待をしていた所有者だ。
更にEVEの自殺も、EVEが普及して初めて同じ国で起きたと報道された。
EVEは元々攻撃性が低く、調和性が高い。
その上彼女らは、自殺しない様、人間を殺さない様にチップで制御されている。
身を守る行動も取るのだが、それを行うのに人間を傷付けたり殺さねばならない場合は、自分が傷付けられるのを受け入れてしまう。
そういう生き物だ。
今回の事件は、そんなEVEの枷でもあるチップが何らかの理由で機能しなくなったのが原因で起きた。
更にそのチップの無効化は数体ではなく国の一都市で突如として大規模に起きた様だと、アナウンサーは説明していた。
「国は何者かによるテロである可能性も考慮しつつ、調査すると発表しています」
そんなアナウンサーの言葉を聞きながら、フタは考える。
『チップの無効化か。もし、それがアイに起きたら……』
そう思った後、そっとサチとイツを交互に見る。
『兄さん、顔色が相変わらず全然変わってないけど、慌ててるだろうなぁ』
そして静かに食事に戻り。
イツは「サチ。明日から学校の送り迎えをするぞ。雨も多いからな」と、取って付けた様な理由を添えて食事に戻る。
サチも「分かりました」と言って食事を再開させた。
アイはしばらくテレビの方を食い入る様に見ていたが、何事もないかの様に食事に戻り。
シンもいつものポヨホワ顔で「物騒だねぇ」と言い。
御影家の面々は、特にこの話をする事なくいつもの食事を続けた。
*
次の日の朝。
イツはEVEのチップが無効化された事件で思い悩んでいた。
『もし、あの現象がここで起きたら。サチは……』
そこに。
「あの事件が心配ですか?」
ぬっと背後からボクがイツの顔を覗き込んで来て、びっくりしたイツはバクバクと高鳴る胸を押さえる。
「ボク……」
コイツは……。
とイツは恨めし気にボクを見つめ。「ああ、心配だ」と素直に伝えた。
「イツ様はサチの事が大好きですもんね」
イツがどうしてこんなに思い悩むのか、その理由を知っているボクが言う。
「いや……別に、そんな事は……」
「……」
そしてボクは踵を返して去っていった。
サチの元に。
「サチ、イツ様が心を乱していたぞ」
こちらには普通に合い、そう告げ口をする。
「えぇ?! ど、どういう事ですか?」
「ヒントは昨夜のニュースだ」
「昨夜のニュース……!」
サチはすぐに何が原因か分かる。
「そろそろ学校に行く時間だな。気を付けて行って来いよ」
「はい、行ってきます……」
そう返事をし外に向かいながら、サチは自分は大丈夫だと、どうイツに説明しようか考えていた。
そんなサチの後姿を見ながら「サチもイツ様が大好きだよな」とボクはポツリと呟くのだ。
なお。
「あまり心配しなくても、大丈夫ですからね?」
と、サチは送迎中にイツに伝える事は出来た。
*
「レンちゃん。何を見ているんですか?」
梅雨もイツの送迎もまだ続くある日の夜。
リビングのソファーで仰向けにだらしなく寝そべって、スマホで何かを見ているすっかり実家の様な安心感とばかりにくつろいでいるレンにサチがそう聞く。
「んー、漫画。バトルもので面白いんだけど、サチも見る?」
レンは布教する気満々である。しかしサチは困り顔だ。
「サチは、イツさんの許可が下りないと見られないので……」
「え? 拘束されてる? DV?」
レンがびっくりして起き上がった。
「ちっ……違います! イツさんはそんな事をしません! ただ……」
「ただ?」
レンから催促する様な顔を向けられ、サチはたじろぐ。
「う……。色々と、事情があるんです」
「事情……」
レンは何だか凄く気になります。という顔をしている。
そこに。
「レンや。こういうのはあまり無暗に聞き出すものではないぞ」
と、ホーがパタパタ飛んできてレンの頭に止まった。
「分かってる」
レンがちょっとだけむくれて答え、サチはほっとした。
「取り合えず、漫画のタイトルを教えてください。イツさんに確認してみるので……」
数日後。
「駄目だそうです……」
サチは残念そうだ。
レンも「えー……」と残念がっている。
そしてますます、イツがどうしてサチにそこまで厳しいのか気になりだす。
その気配をホーは察したのか、サチとレンが分かれたタイミングでパタパタ飛んでレンの肩に乗った。
「レンや。人には知られたくない秘密もあるからな、むやみに探ろうとするではないぞ」
ホーからそう釘を刺されて「そんな事……。しないし」とやや間のある返事をレンが返したから、ホーは本当に大丈夫なのかとため息をついたのだった。
おまけ①
「そういえば、出かけるとサチに似てる人をよく見る」
外に出るようになったレンは、顔つきや体の特徴がサチに似ているEVEを割と見ていた。
「そうですね。サチは量産型のEVEで同タイプのアンドロイドもいますから」
「ほぉ~う」
「『白雪シリーズ』っていうんですよ。童話の白雪姫をイメージしたモデルなんです」
そう言ってサチは自分達のモデルの紹介ページをスマホで見せて、説明するのだった。
おまけ②
レンが実家の様な安心感とばかりに、だらしなくリビングのソファーで漫画を読んでいる時。
『そう言えば、レンはチップがないから読み取るとエラーが出るんだよな……』
ボクはそう思いながら、何の気なしにスマホでレンのチップを読み取る。
すると。
『製造元:エルピス』
と、あの実在しない会社名が出て来る。
『ど、どういう事だ?!
ないと思っていたチップが、実はあったか?
いや、レンのあの態度は……』
こうして。ボクは数日間、様々な場面でレンに対しチップの読み取りを何度か試みた。
すると、反応する時としない時があるという事が分かる。
そして、とある事にも気が付き。
「という訳だが。ホー、お前何か知らないか?」
「お主の考えている通り、スマホに仕掛けがあるんだ」
「やはりそうか」
こうしてボクは思案しながらホーの元から離れ。
「相変わらず、愛想のない男だ」
ホーはそう言って呆れた顔で見送った。
その後ボクがエルピスという会社を改めて調べると、ホームページが出来ておりEVEの発注も受け付けていた。
『このタイミングでか……』
彼は思案しながら、ブラウザを閉じた。