Dへの扉

謎生物、地球でやりたい事をする

EVE#021『シンの出張』

注意
  • この物語の元となったのはとある版権物
  • 後に矛盾が生まれる可能性アリ
  • 色々あってこの物語はいらない子となった為、突然終了の予感
  • 私は漫画や小説などを作るのは得意じゃない
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ayano-magic.hatenablog.jp


 イツやフタ達は警察の仕事を手伝う事もある能力者なのだが……。
「僕、しばらく家を留守にするね」
 シンが食事中にそう言い。
「多分色んな所に行くから、いい景色とかあったら写真送るね」
 とレンに約束し、数日後には旅行に行くかの様な荷造りを始め。
 翌日。
「行ってきま~す!」と荷物を持って謎の車に乗り込むシンを、レンはじっと見つめる。
 割と傍で。
「レンちゃん?!」
 シンはびっくりし、「どうしたの?」と背後にいたレンに聞く。
「んー、怪しいから」
 そう言ってレンは運転席の男を見つめた。
「いや大丈夫! この人はもうずっと僕の担当をしてくれてる刑事さんだよ!」
「そうなの?」
「ハイ、俺コジマっていうっす!」
 茶髪で軽そうな雰囲気の若い男性が笑顔で挨拶した。
「ふ~ん。私はレン」
 レンもちゃんと自己紹介をした所で。
「じゃぁ、僕行ってくるね!
 あとお土産もたくさん買って送るからね」
「おー」
 レンは顔を輝かせる。
「じゃぁ、いってきま~す」
「いってら~」

「あの子が噂のレンちゃんっすか~」
 車の中で、運転しているコジマがそう聞いてくる。
 レンの事はシンが購入した御影家の新たなEVEとして、署内では既に周知されているのだ。
「うん、そう。可愛いでしょ?」
「はい、クールビューティーって感じっすね~」
「手、出しちゃ駄目だよ?」
「出しませんよ~!」
 そう言って彼はアッハッハ! と軽快に笑う。
 コジマ。彼は見た通りの、ノリの軽い男である。
 そんな彼に連れられて、シンは自分の住む市を離れ大きな街の大きな警察署までやって来た。
 年に1度の大規模行方不明者捜索をする為に。

 

 シンの能力『失せモノ探し』は、物や人を探せる能力だ。
 探し方は簡単で、シンが探す物をイメージすればいい。
 出来たら探し物の持ち主や近しい関係性の人と手を繋ぐなどし、探す物をイメージしてもらうとなお良いが、シンは能力の精度が高くほとんどの場合写真などを見せてもらうだけでもできる。
 だから警察からは重宝されていた。

 

 シンはいつもの部屋に通され荷解きをした。
 この部屋はトイレと風呂はもちろん、キッチンもベッドも用意されていて、キッチン付きのホテルの様な感じだ。
 しかし室内は、番号が振られた無数のケースが陳列されている棚で埋め尽くされているが。
「これが今回探してもらう人のリストっす」
 コジマが机のノートパソコンに手を添える。画面にはファイルがいくつも表示されていた。
「例のごとく、数字が若い方が重要度が高いので、順番に片付けて行ってほしいっす」
「うん、分かった~」
 この時代の日本においても、行方不明者はたくさんいる。
 なのでシン一人で全て探し出す事は出来ない。
 だから警察の方で、事件性が高いとか著名人だとかで優先順位を付け、シンにできるだけ見つけてもらえるようにしているのだ。
 ちなにみ数字が振られたケースは行方不明者の持ち物など、シンの能力を生かしやすい物が置かれている。
「あと……」
 キッチンの冷蔵庫の中を開けてコジマは缶を取り出した。
「これ、冷やしおしるこっす。他にもシンさんが好きな甘い物を用意しているので、糖分が補給したくなったらすぐに言ってくださいっすね?」
「わ~い!」
 シンは早速冷やしおしるこを開けて最初のファイルを開いた。

 

 数十分後。
 コジマが運転するバンに乗り、シンは出掛けていた。
 シンはかなりの手練れなので、探し物がどの程度離れた場所にあるかが大体分かる。
 だから優先順位順に調べて行き、その中から関係者に頼らず、比較的近くに居る人尚且つ、今日中に終わらせられそうな人数に絞って早速探し出したのだ。
 車の中で、シンの束ねた髪がセンサーの様に動く。
「んー、この辺りかな?」
 シンは目的地に近付いてきたのでカーナビの地図を指さし、「了解っす」とコジマはそこに向かって車を運転した。

 こうしてシンは、警察署の一室を拠点に日本各地を巡った。

 シンが出掛けた日から、レンのスマホにシンの撮った写真が届くようになった。
 山、川、滝、湖など自然物の時もあれば、石像や城などの建造物の時もある。
 もちろん出先で食べた物の写真もあり、初めに送られてきたのも『冷やしおしるこ飲んでるよ~』とおしるこドリンク缶の写真だったワケだが……。
「レンー! 早速シンからお土産が贈られて来たぞ」
 アイがドローンから荷物を受け取りレンを呼んだ。
 するとレンが駆け足でやって来る。
「開けていい?」
「いいぞ」
 ビリビリとダンボールのガムテープを剥がし蓋を開けると、中から蕎麦と野菜。それに舞茸が出てくる。
「おー、約束の品……」
 昨日、シンから今いる場所の特産品を送ると言われていたのだ。
「今日は天ぷら蕎麦だな」
「うん」
 レンは嬉しそうに頷き、荷物を運ぶのを手伝った。

 失踪者は、生きている者もいればそうでない者もいる。
 ある失踪者を探し出した時、シンのアンテナ(ハーフアップにした髪の毛)がグルグルと回りだす。
「あ。この人多分、バラバラになってる」
「あー、じゃぁ一ヶ所ずつ回りましょうっす」
 結局。
 この人は死んでいて、遺体がバラバラにされて埋められていたり沈められていたりした。
 そして翌日。
「んーと、あの真ん中の髭が生えたおじさんの中にある」
 そう言ってシンは遠くにいる人を見る。
 今回もアンテナがグルグルと回転しコジマに車を走らせてもらった所、探している人の一部を身に着けた人物に遭遇したのだ。
「あちゃぁ……、俺だけじゃどうにもならなそうっすね。応援を呼ぶっす」
 この仕事をしていると、時に失踪者の臓器が他人に移植されているパターンもある。
 今回はそれを引いたというワケだ。
 そしてシンは。
『だいぶ慣れてきたけど、やっぱあまり気分は良くないなぁ』
 と、しおっとしなびた。

 レンがボケーと御影荘の窓を拭いている。
 ここの所、何となく物足りない気がしてならない彼女は、その原因を考えていた。
「ねえ、ホー。なんか物足りなくない?」
 ちょうど肩に止まっていたホーに聞いてみるが
「何だ? 庭に花が少ないとかか? あの家にはたくさん植わっておったからな」
 と返って来て「んー、違う」とレンは窓拭きを続行し、ホーは一体どうしたのやらと思いながらもパタパタ羽ばたき水浴びをしに行った。

 しばらくレンは物足りない気持ちが何なのか分からずに仕事をこなし……。
「ねえシンー。私向こうの掃除するから、シンはここの掃除して」
 と言って顔を向け、そこにはアイが立っていてハッと気が付く。
「シン、いない!」
「そうだな」
 アハハとアイは笑って「じゃぁ、私が代わりにここの掃除をするな」
「うん。
 ねえ、アイー」
「どうした?」
 何かに気が付いてレンは顔を輝かせている。
「私、なんか最近物足りなかったんだけど、シンがいないからだった」
 それにアイはきょとんとした後、笑った。
「そっか。そうだな。レンがここに来た後、シンはずっとそばにいたもんな」
「うん」
 レンはコクリと頷く。
「でも来週帰って来るから、それまでの辛抱だぞ」
「そうだね」
 こうしてレンはウキウキと掃除に向かい、アイは「懐かしいな」と昔を思い出し。
 そんな彼女らの様子を、遠目にボクとホーが見ていた。

 レンが物足りないとなってから一週間たった。
「今日、シンが帰って来るって」
 何となくウキウキソワソワしているレンが傍に居たフタにそう話し掛け、「そうだねぇ」とフタはのほほんと返す。
「帰る前に、私がこの家に来た時食べた大福を売ってるお店で和菓子を買ってきてくれるって」
 レンがワクワクといった様子でそう言っているので、「楽しみだね」とフタがニコニコして言う。
「うん」
 レンはいつもよりちょっと嬉しそうにうなずき、フタがフフフと笑う。
「アイも昔こんな感じっぽかったな~」
「んー? 何の話?」
 レンにそう言われて、フタはハッと我に返り。苦笑いを向ける。
「あぁ。僕がしばらく家を留守にして帰って来る時、あからさまにワクワクソワソワしてたみたいなんだよね」
「ふ~ん。私はそこまでじゃないけど」
「そう?」
 本当に? と言いたげなフタに、レンはツンッとした顔で「うん」と返事を返して仕事に戻った。

 シンはようやっと仕事が終わり、ヘトヘトになりながらトドメの冷やしおしるこドリンクをすすっていた。
「お疲れ様っす。じゃぁ、家まで送るっすね」
「ありがとう。あ、でもちょっと寄ってほしい所があるんだけど……」

 というワケで。
 ちょっと高級な和菓子屋さんでトドメのお土産を買って、ヘトヘトのシンが「ただいま~」と帰って来た。
「おかえりー」
 ちょうど玄関先にいたレンがいつもより嬉しそうに出迎える。
「ただいまレンちゃん。はい、約束の和菓子。今日はねぇ、季節の練り物と柏餅にしてみたよ」
 差し出された和菓子が入った紙袋をレンは受け取り掲げる。
「おー。お茶入れてくる」
 こうして二人は和菓子と緑茶を楽しんだ。

 夜。
 レンは御影家の屋根の上に登って星を見ていた。
 そして考える。
 彼女は元々EVEの扱いの悪さやその理由をテレビやネットなど見て何となく把握していたが、ここで暮らして外を見るようになってから更に実感していた。
 それから、彼女らと自分の違いについても。
 そこに。
「星を見るのが好きなの?」
 と、シンが屋根の縁から顔を出してレンに訊ねてから、よじ登って隣に座った。
「んー。特別好きじゃないけど、前居た場所は街灯とかなかったから星が良く見えたし、割と見てた」
「そうなんだ」
「でも、私がいた所とちょっと見え方が違う」
「ふ~ん?」
 レンは南半球の近くなどにいたのかとシンは考える。
 しばらく、二人は無言で夜空を眺め。
「シン」
 レンはシンの名前を呼ぶ。
「何?」
 レンは街頭でぼんやりと見えるシンの間抜け面をしばし見つめ。
「んー。やっぱいいや」
 と言った。
「そう……。気が向いたら話してね」
「うん」

 

+++

「レン。君はね、EVEじゃないよ。
 君は、LILITHだ」
 父がそう言い、私は「リリス?」と聞き返した。
 けど父は何の反応もしてくれない。

 私はその後、この事を聞くのは何となくしなかった。
 父がもうこの話はしたくない様に感じたから。

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