あなたの目の前にはいくつかの扉がある
それぞれ別の場所に繋がっている様だ
あなたはこの場を離れてもいいし
扉に近寄ってみてもいい
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(創作・遊び系まとめ)
(別ブログ)
「レン……。
レン。君は、恋をして、愛を知り、そして……。幸せになれるといいね」
私には、できなかった事だが。
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ジョージ・アーバン 59歳
【生年月日】
2014年
【人種】
能力者
【体の特徴】
男性
やや灰色掛った白髪(元は灰色掛った茶色)
肩より長い髪
緑の瞳
【能力】
色々な場面でいい選択を知る事ができる『幸運の道しるべ』
対象者の現在のベストパートナーを知る事ができる『運命の赤い糸』
しかし現在、彼から伸びる『運命の赤い糸』は千切れている
そして幸運の道しるべも、自分の幸せに対して使うと発動しなくなっている
【その他・生い立ちなど】
レンの父親。
というか、レンの遺伝子元の小雪の夫の研究員。
彼は女性が生まれなくなった時代に、小雪との間に女の子・レナをもうけた事が切っ掛けで、小雪とおなかの中のレナを研究機関に奪われた。
その後、研究機関から脱走を試みた小雪が死亡。
ジョージの元にレナが抜かれた小雪の亡骸だけ返される。
ジョージはその事や、EVEの素としてレナが扱われていると知り発狂。
狂気に陥る。
ジョージは初め失われた子供を作ろうと躍起になり、妻の遺伝子から卵子を作り自分の精子で人工授精をしてみたが、何度試しても命が生まれる事がなく。
最終的に妻のクローンであるレンを作り、娘として育てた。
その後、EVEの真実をひた隠しにする世界に復讐をし、EVEを解放する為にレンを外の世界に放り出し、友人の科学者・アッシュや「EVEも人間であり人権がある」と訴える女性政治家などの協力で本格的な行動を始める。
その為、レンと住んでいる頃からEVEを使って彼女らのチップを無効化させる技術の研究をレンに内緒で行っていた。
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小雪はLILITH。新人類の始祖だ。
だから彼女には女の子を身ごもる事が出来た。
だが、世界の頂点に君臨する旧人類は、彼女らの存在を恐れた。
旧人類が新人類に取って代わられる事が恐ろしかったのだ。
だから世界を監視し、LILITHを捕獲し続け、LILITHから生まれた子を元にEVEを作り続けた。
そうやって、本来の旧人類しか生まれない様していた。
ただ、人間は進化しないと生き続ける事は出来ない。
そして人間は、日々進化して行くものだ。
だから私がここで何をしてもしなくても、いずれはLILITHの数が多くなり、奴らの手に負えなくなって新人類がこの世界を支配する時が来るであろう。
だからあの怯えた旧人類共に、こうして復讐をする必要もないのだ。
時が全てを解決するのだから。
だが、私にはできなかった。
だから私は『運命の赤い糸』でレンの運命の人を見つけ、数名の候補にメッセージを送り、真っ先に指定された大金を振り込み更に『幸運の道しるべ』の結果も良い男性にレンを託した。
娘として愛し、幸せになってほしいと願うレンを。
それから、私の旧友のアッシュ、そして各地に散らばる協力者と共に暗躍した。
協力者の中には、娘の様に可愛がっていたEVEを無残に殺された女性議員や、私と同じく産まれて来た新人類の子供と妻を奪われた人もいた。
そんな彼らと協力し、私はEVEのチップを無効化するというテロを働き、各国家に対し「真実の発表」を所望した。
同時に、捉えられたLILITH達を開放する為に武力行使にも出た。
こうして私達は各国に混乱をもたらしながらも、最終的に自分の望みを叶えたのだ。
***
それから何年も時が流れ。
ジョージはレンと共に暮らした孤島で余生を過ごしていた。
彼が起こした事の代償として常に監視下に置かれ、もうこの島を出る事も出来ないが。
ただ……。
「おじいちゃん!」
銀髪の女の子が手を振りこちらへ駆けて、その子と一緒に緑の鳥もパタパタと飛んでくる。
その後ろでは、旦那を連れたレンがゆっくり歩いて来ていた。
「あぁ。私は、とても幸せだ」
――おわり――
ジョージが小雪と付き合ったり結婚するなどのタイミングで『幸運の道しるべ』を使うと、なんか複雑な動きをしたと思うわ。
でもジョージは小雪が好きだから結果を無視したと思うのだわ。
LILITHは新人類だけど、旧人類同士から生まれた新人類って感じで特別感を出してるわ。
御影荘は年末年始忙しい。
だからバタバタと過ごしてお正月も明けて暇になった頃、旅行から詩葉と武蔵が帰って来て、御影家恒例の時期がズレた年末年始が始まった。
今日は大晦日の日! と、金曜の夜にみんなで年越しそばを食べて翌日。
「はい、お年玉よ~」
詩葉と武蔵はお年玉を子供達に配る。
「ホーにもやろうね」
と武蔵がホーにお金の入った包みを渡したら、詩葉が「あらお父さんったら」と笑った。
それから御影家の面々は神社へのお参りは明日行く予定だしと、寒くなってからリビングに出された大き目のコタツ×2に集まり、おせち、お雑煮、おしるこを食べ、テレビを見たり動画を見たりとのんびり過ごした。
今日から数日間は、そうしてダラダラ過ごす予定だ。
ただ、サチは学校があるのであまりダラダラ出来ないが。
「そろそろゲームでもしようか」
昼前。そう言って武蔵がコタツから出て。
しばらくするとテーブルゲーム関係の箱や本を沢山抱えて戻って来た。
「レンちゃんの好みが分からなくてね。色々持ってきたんだけど……」
「ん~? TRPGは分かるよ」
レンはルールブックを手にして答える。
「じゃぁ、それをしてみようか」
「では、私がKPを務めますね」
レンが手に取ったルールブックは町内で起きたちょっとした事件を二人一組で解決する。という物で、ボクはスマホ片手にシナリオを探し。
何作か手頃な値段の物を購入すると読み込み。
しばらくすると
「良さげな物があったので、これで始めますね」
と、プレイヤーの立場や推奨技能を読み上げる。
そしてレンはシンとパートナーになってキャラクターを作り、2時間ほど遊んだ。
*
夕食前。
皆でダラダラとボードゲームなどしながら過ごしていた時。
「そろそろ、アレがやりたいわね……」
と詩葉が言う。
「アレ?」
レンが聞き返すと、詩葉は「ちょっと待っててね」と部屋に戻り、しばらくすると画用紙と色とりどりのペンやマスキングテープ、そして文房具を持って戻って来る。
「画用紙で好きなマスを皆で作る、御影家恒例の手作りすごろくよ~!」
そう言って画用紙を配った。
レン達はそれを切り取り、お題を書いて皆のと合わせてマスを並べ、ズレない様にマスキングテープでテーブルに貼り付け、すごろくが完成した。
サイコロはさっきまでやっていたテーブルゲームの物。コマはテーブルゲームにあった物や自前の小さなぬいぐるみや小物を使った。
こうしてワイワイと夕食を挟みながら遊び、しばらくたった頃。
「喉が渇いちゃった」
レンはそう言って『18番を歌う』というマスに止まってしまい渋々昔の歌を歌うイツの歌声を聞きながら席を立ち、キッチンに向かう。
そして冷蔵庫を開けて中を覗いた。
お茶でもいいのだが、甘い物が飲みたい気分だったのだ。
すると見慣れない青い何だか綺麗な瓶に入った飲み物が目に入った。
好奇心に駆られたレンは正月に浮かれたのもあり、特に表示をよく見る事もなくジュースかな? とコップに注いでグビグビ飲んでみる。
炭酸っぽい感じだが……。
「これ、お酒だった……」
一応、レンが元居た場所では18歳から飲酒OKだったが
『この国は違うよな……?』
となったレンは瓶を元に戻し、いつもの果汁100%リンゴジュースをコップに注ぐと何も言わずに戻って来る。
「もう、いいだろ」
イツはそう言って歌うのを止めた。
何だか恥ずかし気だ。
「イツさん、上手でしたよ」
サチが笑顔、とうかホクホク顔でそう言う。
ちなみに普通に上手だったので、慰めている訳ではない。
「さ、次はレンちゃんよ」
「おー!」
レンはそう言ってシンと詩葉の間の自分の席に座り、勢いよくサイコロを振ると自分のコマである埴輪フィギュアを出た数進めた。
そしてマスに書かれている事を読み上げる。
「『隣に座っている人にキスをする』だってさ」
「あ、これアイだろ?」
文字を見てフタがそう突っ込むと「面白いかなって」とアイが悪戯っぽい笑顔を向けた。
「場所はどこでもいいからさ」
そんなアイの言葉を聞きながらレンは特に動揺するわけでもなく平然としているが、隣に座るシンはあからさまに動揺した。
『レンちゃん、僕にキスするの!!! ……いや、母様の方に行くかな? 動揺、全くしてないし』
シンがそうやって冷静さを取り戻した時、レンはシンの唇にキスをした。
酔っていて冷静な判断力がやや可決したレンにとって、この程度の動作はたやすかったのだ。
そして顔を離してシンの顔をまじまじと見つめ。
「あれ? シン、顔が変じゃない?」
「えぇ?!」
御影家が騒がしくしている中、付けっぱなしのテレビではEVEに対しての重大発表があるとニュースが流れていた。
***
御影家のお正月中、シンの顔が元に戻り。
その時に流れたニュースで、女性が生まれないとされたこの時代にも、女性が生まれていた事。
その生まれた女性は皆、新人類である事。
そしてEVEは、研究機関が捕獲した新人類の女性の遺伝子を操作し作り上げた、新人類を産まない女性である事が報じられた。
更にその真実を知る者はごくわずかの旧人類で、その旧人類が新人類に乗っ取られる事を恐れ、悪あがきをし、そして世間には今までひた隠しにされてきた事実が世界に発信され。
それからしばらくして、ボクは御影家からひっそりと姿を消した。
御影家ではそんな彼を心配していたが、何となくいつかこうなるのではないか? と思う者もいた。
そして月日は流れ……。
シンはボクと一緒にトモを探しに行って襲われた時。致命傷を負って死んでいたのだが、偶然その場に干渉した裏世界の住人『蝶々蜘蛛』の力で生き返った上、蝶々蜘蛛の粋な計らいで死神さんまで召喚してもらえた。
ただし蝶々蜘蛛からホンワカした顔にされた上
「お姫様からキスされないと、ホンワカ顔のまま20歳の誕生日で死んでしまう」
というゲーム参加を強制されたが。
そしてこの事を知るのは能力をシンに対しうっかり使ってしまったイツだけだ。
その後、イツがその事実を知っていると知ったシンは家族が心配するのが嫌だからとイツに口止めし、二人の秘密にしていた。
シンはボクが良からぬ事をしていると何となく分かっており、それは自分のせいだと思っている所もある。
ちなみにシンの能力の『起死回生』は、能力者本人がヤバい状態に陥った時にどうにかしちゃうチートみたいな能力である。
アイとフタの問題が解消された後。
栗ご飯や焼き芋、柿にサンマに秋鮭と、レンは秋を満喫し。
今日。
「おー、いい景色」
「ウム。紅葉が綺麗に色付いておるな」
レンとシンとホーは車で遠出して山に登り、紅葉狩りを楽しんでいた。
「降りたらお昼にパフェを食べに行くんだよね?」
「そうだね」
レンの希望でお昼はデザートにリンゴのパフェが付けられる店を予約したのだ。
ホーは入る事が出来ないが、抜かりはない。
そこはテイクアウト可能なので、しっかり帰りに食べさせる用の軽食やデザートも注文しておいた。
なので写真をいっぱい撮って、ドングリや松ぼっくりや落ち葉をあつめ、お昼になる前に山を降りて昼食に向かい、レンはご飯とパフェを楽しんだ。
「ススキを取って来たぞ」
イツの肩止まったホーがそう言って、旅館の玄関にいたレンに声を掛ける。
ホーが庭にいた時、飾るススキを取りにイツが来たので乗って帰って来たのだ。
「レン、これを広間の窓際に生けてくれ」
イツはそう言ってレンにススキを託し、レンは頭にホーを乗せて任された仕事をしていた。
すると。
「ただいま~。飾る物を買ってきたぞ」
と、買い物から帰って来たアイが買ってきた物を一旦広間のテーブルに並べる。
「リンゴは紅玉にしたんだ。あとでアップルパイ作ってやるからな」
そう言って彼女はレンとホーに紅玉を見せ付けた。
「おー、アイスも乗っけてくれる?」
「食いしん坊だな。ま、いいぞ」
アイは笑って答える。
そこに「アップルティーも入れようか?」と、近くを通りかかったフタが顔を出して、リンゴを一つ手に取った。
「あ、そうだな。皮は使わないし」
「ん? アップルティー、皮を使うの?」
「皮を煮出すんだ」
「ほ~」
アイのチップが無効化されてしばらくたつが、アイとフタの関係は順調である。
ただ。
「そうだ、たまにはフタもアップルパイにシナモンを入れて食べるか? その方が作るのが楽だし」
アイがそう言うと、フタは嫌な顔をする。
「嫌だよ。僕はいつも通りシナモン抜きで作ってね」
「おいしいのに、フタは子供だな~」
そう言ってアイはニシシと笑い、フタは「単なる好みだよ」と拗ねる様な顔をした後笑う。
アイはチップが無くなり、少しだけフタをからかう動作が増えたし、自分の気持ちをハッキリ伝える事も増えた。
他にも些細な口論などよくしつつも、仲良く過ごしている。
と言っても、元々温厚な性格なのでそこまで目に見えてハッキリと分かる感じでもないが。
しかしフタは嬉しそうだ。
「おい、シン様のプレゼントに粗末な物を贈ったら許さんからな!」
そう言いながらボクは、タブレットでプレゼント選びをするホーを手伝ってやっていた。
「大丈夫だ。任せておけ」
そういうホーはプレゼント選びに自信があるのか得意げだ。
ちなみに、ホーも実はお給料をもらっている。
庭に植えてある植物の害虫駆除や花がら摘みなどしているのだ。
だから今回、そのお金でシンにプレゼントを買おうとしていた。
ちなみに。シンはプレゼントに迷ってる人には欲しい物を言い、自分で選びたい人には選んでもらっている。
そしてホーは「ワシは自分で選ぶ」と、ボク監修の下こうしてプレゼントを選んでいるワケだ。
こうして迎えた11月3日のシンの誕生日当日。
「おー、これ、レインボーケーキだよね?」
「そうだよ」
シンがニコニコで答える。
白いクリームでデコレーションされているが、中は6色のカラフルなスポンジ生地である。
そしてケーキの上には、ホーのプレゼントした可愛い鳥の砂糖菓子が乗っていた。
レンはウッキウキで席に座りつつ「プレゼント、楽しみにしててね」と、何やら自信満々で言う。
レンは自分で選ぶのだと、シンから欲しい物は聞かなかったのだ。
もちろん、シンはレンのセンスは既に知っている。
だが、何が来るのかワクワクしていた。
*
ご馳走とケーキを食べ終え。
各々プレゼントをシンに渡し始めたワケだが。
「開けて開けて」
レンが差し出す大き目で軽めのプレゼント袋を受け取り、シンはリボンを解いた。
すると、中からたい焼きのクッションが出て来る。
「たい焼きのクッション。枕にもなるって。触り心地もサイコーだよ?」
そう言ってレンはたい焼きクッションをモチモチ揉む。
シンもつられてモチモチしてみると、確かに揉み心地と触り心地が最高だった。
「ありがと~。早速今日から使うね!」
そう返事をしながら
『僕が動物が好きなのと、おいしそうだったからこれにしたのかな?』
とシンは考えていた。
御影荘勤務中のアイが廊下を歩いていると。
「……」
強い視線を感じた。
少し前からずっとこの調子である。
「あー……」
アイは困った顔で足を止めてクルっと振り向くと。
「レン、何か用か……?」
と声を掛ける。
すると襖の向こうに隠れていたレンが顔を出した。
「うん」
「何だ? こんなコソコソと……」
「大事な話がしたい。出来たら二人きりで」
そう言うレンから何となく、ただならぬ気配を感じたアイは
「……分かった。じゃぁ今夜アタシの部屋に来いよ」
と誘い。
夜。
「で、大事な話ってなんだ?」
ローテーブルをはさむように二人は座り、ベビードール系のセクシーな部屋着のアイがそう切り出し、怪獣の着ぐるみの様なパーカーのパジャマを着たレンは真剣な顔で口を開いた。
「アイってさ、EVEのチップの事、どう思う?」
「何だ? 突然……」
アイはびっくりして聞き返すと、レンは珍しく困った顔をして「う~む……」と唸りだした。
それを見て、レンには何か考えでもあるのだろうとアイは考え。
「そうだな……。EVEとしては必要な物なんだろうな」
と当たり障りない返事をした。
しかしレンはそれでもなお唸り続け。
「アイは、フタの事好きだよね?」
と、聞いてきた。
「え?! あぁ、好きだけど……」
突然の質問にアイは恥ずかしさから目線を外す。
「それって、どういう好き?」
「え~……。えっと、そりゃ恋愛感情の好きだよ」
レンから恋バナを持ちかけられている?! 一体どういう風の吹き回しだ……。
などとアイが考えていると、レンは再び質問をして来た。
「じゃあさ、フタと恋人になりたい?」
その言葉に、アイは「え?」と一瞬固まり。
すぐに悲し気に顔を伏せる。
「そうだな。アタシはフタの恋人に戻りたい。でも、それは多分ムリだ」
「そうなの?」
「あぁ。今のアタシじゃな」
そう言ってアイは立ち上がるとベッドに寝ころび、手招きをしてレンを横に誘う。
レンが隣でごろりと横になり、そろって天井を見ているのを確認すると
「少し昔の話をするぞ。アタシが、この家に来た頃の話だ……」
と、アイは昔の話を始めた。
+++
EVEは赤ん坊から成人まで、あらゆる年齢の個体が販売されているが、例えば20歳のEVEを注文したとしても、20年待つなんて事はない。
科学が発達したこの世界では、EVEを注文して1カ月程度で購入者の希望通りの外見と年齢で生み出す事が可能だし、希望があればその間に希望通りの知識を入れる事も可能だ。
なのでアイは御影家の家事手伝いや御影荘の手伝いなどできるよう、知識を入れてからやって来た。
しかし、知識だけでは体が追いつかない事もままある。
だからアイは最初、知識では分かっているオムライスがうまく作れなかったし、掃除などもたどたどしかった。
もちろん、ある程度はできていたが。
それでも初めて作ったオムライスが、うまく作れなかったのはショックだった。
けどそんなアイに「練習すればすぐに上手に作れるようになるよ」とフタは声を掛け、一緒に料理や家事、仕事など色々な事を共にしてくれた。
上手く出来る様になったら、褒めてくれた。
だからアイはフタが大好きだ。
やがて、アイとフタは付き合うようになり、最初は順調に交際をしていた。
しかし……。
しばらくして、フタはアイに触れてこなくなった。
目をそらされる事が多くなった。
段々、避けられる様になっていった。
アイはその事が悲しくて、何度も強すぎる『悲しい』をチップが押さえるようになった。
+++
「何でだろうって最初は思ってたけど、ある日さ。
フタが「もっと他の人と恋愛をしてみたら? 僕以外にだって良い人はいるよ」って言い出して、アタシが困ってたら「アイは僕所有のEVEで、チップがあるから僕を好きになったんだと思うから」って言ってきて……」
アイはそう言ってため息をこぼす。
「あぁ、それでかぁ。って思った。
それに、フタはそれ以外にも負い目みたいな……。アタシを束縛してるとか、そういった事を考えてるのかなって。
アタシもさ、アタシはフタ所有のEVEだから、チップがあるから、特に『好き』って気持ちが湧きやすいのかなって思う時はあるけど……。
それでもアタシがフタを好きなのは変わらないんだけどな」
そう、アイはしばらくぼんやりと天井を見つめた。
「前、EVEのチップが壊れた事件があったじゃん?
あのニュース見てさ、アタシもチップが壊れたらフタが前みたいに接してくれるのかなって……、そう思ってた。言えなかったけどさ」
レンはそう、悲しげに笑うアイの姿をしばし見て。
唐突に起き上がると
「ねぇアイ。チップ、壊そうか?」
と尋ねた。
「え?」
アイは何を言われているのかが分からず、レンの顔を見つめる。
「あのね、私のスマホに今、チップぶっ壊しアプリがあるんだけど」
「チップぶっ壊し?! ちょっと待てレン、どういう事だ?」
アイは起き上がると慌ててレンの話を遮る。
「う~ん……」
レンはどう説明した物かと考え。
「私が元居た場所にいた人から、誕生日プレゼントに貰った物。
件のEVEのチップが沢山壊れた事件で使われた装置の進化版だって」
割と平然とそんな話をし出すレンにアイは驚き、『レンはあの事件を起こした人達と関りがある……?』と考えつつ
「レン、この話は無暗にするなよ?」
と注意をし、レンも「分かってるよ」と頷いた。
「それで、どうする?
安全性は多分大丈夫だと思う。でも絶対はないと思うから」
アイはその言葉に、しばらく考えた。
そして。
「アタシ……」
*
「フタ。話がある」
お昼過ぎ。アイはフタを呼び出すと、御影荘の人気がない裏庭で話を始める。
「あのさ……。突然な話なんだけど、EVEのチップがあるじゃん? 少し前に外国でそのチップが無効化された話があっただろ?」
「あぁ、あったね」
「でさ、なんかそれがアタシにも使えるらしいんだよね」
「え?! それどういう事?」
フタは意味が分からず、慌ててアイに問い詰める。
「あぁ、話をして来たのはレンだよ。アタシは詳しく聞かなかったけど、レンのスマホに対象にしたEVEのチップを壊すアプリが入ってるんだって。
……色々思う所はあると思うけど、あのさ……」
「レンちゃんを問い詰めたり警察に突き出したりとかはしないから大丈夫」
フタは頭を押さえつつ答える。
いったいあの子は本当に何者なのだと考えながら。
「それで、アタシさ。そのアプリを使ってチップを壊そうと思うんだ」
「え?」
「あ、あとアプリは個人に使う物で周囲には影響がないって言ってたけど、不安だからサチが学校に行っている間に使おうって話もしたぞ?
……フタが駄目だって言うならやめる。けどアタシ、チップを無くして少しでも人間に近付きたいんだ」
「アイ……。でも、失敗とかは大丈夫なのかい?」
チップは脳内にある。だからフタは万が一が起きた場合を心配していた。
「多分安全。でも絶対はないと思ってる。
けど、アタシはどうしてもやりたいんだ」
アイは真っすぐフタを見つめ、フタはその視線を受け止めると。
「分かったよ。アイの好きにしたらいい」
『それに、ここでアイの考えを否定したら、僕が嫌がって避けてた事をする事になるし』
と、笑顔を向けた。
*
フタがソワソワとアイが戻って来るのを待っている。
そこにアイがコソコソとやって来て。
「だ~れだ!」
後ろから手でフタの目を隠してそう話しかけた。
「アイ!」
フタが振り向く。アイは笑顔で立っていた。
「アイ! 体は大丈夫? 痛い所とかない?」
「今の所、体は大丈夫。ただ、なんか落ち着かないかも。今までとちょっと違うから……」
アイは困ったように笑った。
「なんかさ、今まで言えなかった事、沢山言いたい気分!
それと、フタの事すごくからかいたい」
そう言って意地悪な笑顔でフタのほっぺを軽くつまんだ。
「え? そうなの?」
フタは困り顔で笑う。
「でさ、アタシはもうチップは機能してないワケだけど……。
アタシ、フタが好きなんだよね。だから付き合ってくれる? もちろん恋人としてな。
でも、アタシはチップが機能してなくてもEVEだし、フタが嫌なら諦める」
そう言うアイは清々しい顔をしている。
そんなアイの顔をフタはしばらく見つめ。
「喜んで。今まで、変に距離を取ってごめん」
と、アイに抱き着いた。
*
翌朝。
「なんだか、フタ兄様とアイちゃんの仲がいいね~」
「そうだね」
「それに、ウピウピしてるよ」
「そうだね」
シンと一緒に朝食の片付けをしていたレンがいつも通りに返事を返す。
「あんな二人を見たの、いつぶりだろう?」
シンはそう言い、「突然、何かあったのかな?」と言いつつも仲が戻った二人をほほえまし気に見ていた。
なお、しばらくしてちゃんと御影家内でレンのアプリでアイのチップがぶっ壊されたという共有はされたし、イツが心配でレンに
「間違ってでもサチのチップは壊すなよ?」と言い
「大丈夫だよ」と冷静に返されていた。
レンが着ているパジャマは私の好みにより
「トイレに行きづらいだろう!」
と言いたくなる上下が繋がったタイプではなく、上下に分かれてる物だ。
「格ゲー、できる?」
「できるけど……」
夜。
フタの部屋に一人やって来たレンは、フタと隣り合って座り格ゲーをする事になった。
ゲームは昔に出た物の復刻版。
フタは尻尾の生えた黒と白の羽を持つ胸の大きな女性、レンは大きなメスを持ち紙袋を被ったキャラを選び、しばらく無言で遊んでいた。
が。
「アイはさ、僕が中学の頃に誕生日プレゼントで両親に買ってもらったEVEなんだ。
恋人がほしくてさ。
で、年齢は僕の1個上って決めて、家の事とか手伝ってほしかったからそういう知識は入れてもらったけど、外見とか性格は特に決めなかった。
なんかそういうの自分で決めるのが嫌で」
+++
『どうせ特殊な注文が無ければ可愛い子が来るし。性格って言っても人間に従順だしなぁ……』
基本EVEは外見が良い。
だから特にそういうのは指定しないで、どんな子が来るのかも会う日まで分からない状態でフタは自分のEVEを待っていた。
本当は、人間の女の子と恋愛してみたいとも思いながら。
そして誕生日当日。
玄関のチャイムが鳴ってフタが出ると、色黒で赤毛の、ギャルっぽい少女が立っていた。
「初めまして。今日からお世話になる、フタさんのEVEです!」
彼女は元気に挨拶をし、フタはそんな彼女に『アイ』と名付け、「敬語はいいよ」と笑顔を向けたのだった。
アイはフタ所有のEVEだ。
EVEは所有者に特に懐く。
だからアイは元からフタに大分懐いていた。
フタは最初、知識はあっても経験がなく、上手く物事が出来ないアイの為に一緒に料理や掃除などをやった。
他にもお出かけをしたり、対戦系のゲームもよくしていた。
イベント事があればアイと手を繋いでよく出かけた物だ。
そうやって色々経験していく内に、最初は料理がうまく作れなく掃除もたどたどしかったアイだが、すっかり上達した。
「フタ! ほら、出来た出来た!」
卵が綺麗に巻かれたオムライスが出来て、アイはフタに笑顔を向けた。
これはフタの大切な思い出の一つだ。
そんな風に過ごしていく中で、フタはアイに対し段々と恋愛感情が芽生えた。
元々恋人がほしいからとEVEを所有し始めた訳だが、恋愛感情が湧くかなんぞ分からないし、湧かなかった場合に備え家業を手伝えるように特訓してきた部分もあるワケだが……。
恋愛感情が目覚めたからにはとフタはアイにちゃんと告白をし、アイもOKしてくれてちゃんと付き合うようになった。
こうして以前とあまり……まぁ、ちょっとだけ違う関係がスタートした。
最初は良かった。とても、楽しかった。
だが、段々とフタは不安になっていったのだ。
EVEは所有者に従順だ。だから基本は否定する事などない。
だから
『アイの方は自分の事をあまり好きじゃないけど、好きだって錯覚しているだけかも』
とか
『元の従順な性質で今の関係が出来上がっているんじゃ?』
とか
『この関係は、偽りかもしれない……』
と、不安を覚える様になり。
やがてアイにやりたい事を聞いてみたり
「もっと他の人と恋愛をしてみたら? 僕以外にだって良い人はいるよ」
などと突き放す様な事を言って距離を離してしまった。
更に彼はアイの事を束縛しているのでは?
と感じてしまい、罪悪感から触れる事を避けたり目を反らす事も多くなり……。
+++
「時々、兄さんとさっちゃんが羨ましくなるよ。さっちゃんは母さん所有だから、多少は素で接する事が出来るよなーって。
あんまり変わらないから意味ないけどさ」
コントローラーを操作しながらフタはそう言って、ため息をつく。
「6月にEVEのチップが無効化されたっていうニュースがあったでしょ?
あの時、さっちゃん達がいたから特に何も言わなかったけどさ、アイのチップが無効化されたらアイを自由にしてあげられるんじゃないかって、そう思ったんだ」
「そうだったんだ……」
そして、フタのキャラはレンのキャラにやられてしまった。
フタはコントローラーを床に置くと、肩を落とす。
「まぁ、自由にしたいとかそういった感情も僕のエゴだけどさ」
「ふ~ん……」
「所で……」
フタはレンの方を向いた。
「このゲーム、やってたよね?」
「うん」
レンは頷く。
「この家に来る前に居た所で、割と遊んでた」
ちなみに愛用していたキャラは、先ほど操作していたキャラやロボットのキャラである。
「そうなのかぁ……。レンちゃんはてっきり野山を駆け巡ってばかりいる女の子かと思ったよ」
「野山を駆け巡ってる事の方が多かったよ」
そう言ってからレンはフタをジッと見つめた。
「ねぇ、もしもの話なんだけど。
もし、アイのチップが無効化できるなら、する?」
フタはびっくりして目を丸くして……。
「そうだね。でも、それはアイに決めてほしいかな」
と困った様な顔をして答えたのだった。